弱法師




弱法師がいた
能楽の役で盲目で捨てられし皇族だ
霊なのだろうか
ここにいる

彼の詩が聞こえてくる
美しい、嘆きの詩が
半分閉じた見えない目で
見えずに見た世界
それが彼の詩だった
それは能を作りし者の
弱法師に成りきりし者の
もう亡くなりし者の
魂の詩だった

弱法師は去った
詩から発した梅の香りを残して

そして梅の香りは体に染み付き
我々も時に弱法師となる

彼と同じく
詩情を思うとき
梅の香りを発するのだ


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