猫が、自らの子供を食べていました。 母猫が、子を産み落としました。 ただ、そこは悪い所でした。食べるような物も無く、全てを腐らすような水があるだけのゴミの山でした。 無慈悲そうな金属の塊と、臭い沼があるだけの所でした。 でも、他の場所に子を産めません。 広大な大地には子どころか、母猫の命まで狙う鳥たちや野犬が徘徊していて、そこに隠れる場所はありません。 唯一、ここだけが子を産み落とせる場所だったのです。 母猫は、我慢しきれず子猫を産みました。 もっと遠い別な所に行けるのなら、そこで育てたほうがいいのはわかっています。 ですが、洞に子を抱えたままで遠くに行く事は出来ません。 ここでしか産む事ができないのです。 無駄にピンク色をした誰かが使い込んでいたであろう服の切れ端の上に産みました。 かわいそうな子供たちが。 三匹、かわいらしい子猫は産まれました。 つらい、この浮世に。 母猫はお乳をあげます。痩せた体で一生懸命あげます。 お乳の色も出も悪いままで。 母猫の体も良くはありません。いつ命を取られるかわからないここで、必死に生きていたのですから。 しかも、子を腹に抱え、よく動けないために良くない物ばかり食べていました。 腐り、毒を持つようになった物ばかり食べていたのです。 お乳にもその影響はでてきます。 悪いことに、その毒が母猫の体の中で濃縮されたのです。 その上、子猫はそれしか口にしていません。 体はみるみる弱っていきます。 ゴミの山や沼からの毒は、さらに子猫たちに襲うのです。 子猫に蟻がたかって来ます。 弱い者に蟻がたかります。 子猫は、蟻にじゃれ付いているようでした。でも、その実苦しいのです。 蟻も、毒も、悪い水も、全てが噛み付くようで。 母猫はもう、何もしませんでした。 ただじっと、泣いているかのように、たたずんでいました。 もう、何もできる事が無いばかりに。 子猫たちを楽にする事ができないばかりに。 あくる日、子猫はみんな死にました。 苦しそうに、死んでいました。 みすぼらしく、死んでいました。 蟻が、ただただせっせと、子猫たちに群がるばかりです。 母猫は彼らのそばにいます。 母猫は彼らに何もできないまま、死なせてしまいました。 つらい思いをさせた上、死なせてしまいました。 母猫は三匹の子猫を一口食べました。 空腹だからではありません。 自分の体の中に入って再び産まれて欲しいから。 子猫には蟻がたかり続けます。 母猫は夜、とぼとぼ去っていきました。 何度も何度も振り返っては、去っていきました。 |