昔、悪魔がいました。 小さな体に、大きな角の、闇の様な体をした、悪魔でした。 彼は、村の中で泣いていました。 幼い彼の顔は、涙で塗れ続けます。 でも、それだけ。励ます人は誰もいません。 その悪魔が来た日は、とてもいい天気で、気持ちの良い風が吹いていました。 少なくとも、小さな頃から昔話を聞いている村人達にはそう見えました。 悪魔はただ、いつになく穏やかで静かなこの日、この村に誘われるようにしてやってきたのです。 別に何をする気もありません。 穏やかな雰囲気に導かれるようにして、恍惚の笑みで来たのです。 彼が感じる空気は新鮮そのものでした。 空は明るく、目が潰れてしまうのではと思うほど。 道端のつまらない草も、川のせせらぎも感動的に感じていました。 そんな時、街が見えました。 そこでは人々が、笑い、音楽を楽しみ、談笑しています。 そこに悪魔は行きました。 街は明るさに覆われていました。 でも、悪魔がそこに足を踏み入れた時です。 ぱっと、笑顔は完全に掻き消え、人々の目線は一斉に幼い悪魔に集中しました。悪魔でさえ見たことの無い、異様な顔をみんなしました。 そして、雪崩の様に、全ての人々は去ってゆきます。 悪魔が来てしまったから。 何もしていない悪魔が来てしまったから。 怒りの表情を浮かべ、人々は悪魔を見ないようにして去っていきます。 彼を悪魔だと、不幸を呼ぶ悪魔だと信じたためです。 不幸を呼ぶのは、その悪魔ではなくて、人々の中にいる悪魔なのに。 街は静かになりました。 悪魔がぽつんと一人います。 悪魔にされた子供が一人、ぽつんと寂しげにいます。 悪魔呼ばれされた子供が一人います。 実はただ単に、村人が伝える悪魔に似ていただけの少年は、ただ立っていました。 たくさんの隠れた怒りの目線の中、立っていました。 誰もいません。 誰も来ません。 ただ、泣くだけです。 少年が泣くだけです。 その涙は黒く、地面を汚しました。 誰も彼の前に姿を現さず、扉を堅く閉ざし、それは遠まわしに「いなくなれ」と言っていました。 泣いても誰も来ません。 何も悪い事していないのに。 ただ単に、悪魔に似ている外見の民族に生まれただけなのに、このような状態を作ってしまったのです。 人々自身が悪魔と呼んでいる、その悪魔をきちんと見なかったために。 悪魔に見える、善良な少年を見なかったために。 悪魔は泣きました。 でも何も解決しません。 村人はじっと心の奥底で帰れと言っていました。 村人の心の中に住む、本当の悪魔はすくすく育っていったのでした。 |