昔から、その山には遺跡があると言われていました。 遺跡には黄金が隠されており、それは取り尽くせないほどの量があると言われていました。 それで何人もの人々がその遺跡を見つけようと山に入っていきましたが、結局今まで見つかる事はありませんでした。 挑戦する人々と同じくらいの人が、次々に諦めていったのでした。 それでも執念深く探し続ける人はいました。 そのうちの一人の男が、遺跡の場所を書いてある古文書を見つけ出したのです。 ついに、遺跡のありかがわかったのです。 男は一人、山の斜面を掘っています。 その宝を独り占めしようと、一人で昼も夜も掘っています。 その穴は大分深くなり、あたかも洞窟のようになったころ、石の壁を掘り当てました。 ついに捜し求めていた遺跡を掘り当てたと思い、急いでその壁を崩す事にしました。 重い石もゆっくりとどけられていきます。 一人がどうにか入れるくらいの大きさの隙間を作り、男は喜び勇んで懐中電灯片手にその石壁の部屋へと入ってきました。 がらん、としていたのです。 何も、 何も無いのです。 しいん、と、 音も、ありません。 きいん、と痛い、耳鳴りだけが、聞こえます。 懐中電灯の灯りも自分が、自分自身であると言う意識さえも無くなりかけ、その狂気の様な静寂と沈黙は、絶望のように男に圧し掛かって来たのです。 その暗さは何なんでしょう。 まるで、悪意だけの生き物のように、男を睨みつけてきました。 いいえ、そんなはずはありません。 でも、そうだとしか思えないのです。 仮に、黄金があると言うのが嘘で、本当は何も無いとしても、こんな人を狂わせるかのような闇は一体何なんでしょう。 男は、思わず泣き出しました。 ひっ、ひっ、と子供のように、泣き出しました。 男の手からこぼれ落ちた懐中電灯が、何か黄色い物を照らし出します。 黄金でした。 紛れも無い、男が探し求めていた、本物の黄金でした。 でも、男はそれに何の興味も持ちません。 その位、この石の小部屋は暗いのです。 暗すぎるあまりに何も無いのです。 男は、涙を垂れ流し、立ち去っていきます。 黄金を残して、立ち去っていきます。 よくわからない感情の畏れを感じ、その感情と涙を伴い、足を引きずりながら立ち去っていきました。 あるべき物が一切ないような、恐ろしさを感じながら。 その部屋には、今なお、あの闇が地下の小部屋にいます。喪失感と言う暗闇がいます。 何も無い空間が、黄金を飲み込んでいます。 もう二度と、人が来ることはありませんでした。 |