奇妙な夢を見る。 暗闇の中子供が私の視点に向かって遠くから歩いている。何も音をたてずに。子供だけしか見えない。子供だけ暗闇から浮かび上がっている。 ゆっくりと私に向かってくる。 白い服を着た子供だった。他の部位は――体の色――は銀色だった。 私の目の前でその子供は止まった。少女なのか少年なのかわからない。 おもちゃの様な、すぐ壊れそうな子供。何かのぬいぐるみを持っている。 私はその子を「私」と判断した。 青い瞳――深海のディープ・ブルーだ……――が私の視点を見つめる。 私も見つめ、目をそらさない。 しばらく見つめていた。 それ以外何もしなかった。 ふいにその子は右目から涙を流した。 よく輝く涙を私はぬぐった。 その子は私の首に触れる。 そのとき私は不自然な事に気づいた。首から上が何も存在しないようだった。 子供の手の感触が首の中の部分に感じた。本来は頭があって触れる事のできない部分に触れられていた。 その子は私の上に何もない首をなでていた。 急に明るくなる。 そしてどういう事だろうか。音が全くない暗闇の中。タキシード姿の頭のない男が座り込んでいるのが浮かび上がっている。 私は男の方へ向かう。ゆっくりと歩いて。ゆっくりと。何が元になっているのかわからないぬいぐるみを抱きながら。 あの男はさっきの私だ。暗闇の中「私」だった彼だけが私には見える。 彼は全く動かない。私がさっきそうしたように、多分今の子供の私を不思議そうに見つめているのだろう。 今の私もさっきの「私」を見つめている。 痛々しさに胸が打たれた。 私は手を伸ばせば触れる事ができる位置まで近づいた。 さっきの通り私は彼を見つめる。彼も私を見つめているのだろう。 ずっと見つめていた。 そして気づく。私も彼も「私」だという事を。 子供の様な不安な気持ちが生まれ、彼に対する痛々しさが入り混じって、私は涙を流した。 ぬいぐるみの毛の中に指を掻き入れながら。 彼は――さっき私は――優しく涙をぬぐう。 目にはまだ涙がある。 でももう泣かなかった。 彼の頭がなくなく途中で切られた首に手を伸ばした。 励ますように、柔らかく何度も。 「大丈夫?」と思いながら。 結局は自分のことなのに。 また光が来る。 でも暗い。赤黒い色だ。さっきまでの感覚とは異なる全身の重さがある。 私は目をあけ目覚めた。直射日光が私の顔に照っている。 私は…何かあったのだろうか? |