スキー事件
〜やっぱりすべて私が原因?〜

〜随分前の話し〜

ある年の1月1日に道内の大きなあるスキー場に行った。
そのスキー場は大きくていくつもリフトを乗り継いで山のてっぺんまで行けるようになっていた。 山のてっぺんには山小屋風のロッジがあって小休止できる。
私は、そのロッジで休んでから外に立てかけていたスキーを履いて滑ろうとした。

あれ?スキー靴とスキーの金具の具合がしっくりこない。む・・・。買ったばかりのスキーなのに金具が壊れたか?誰かにいたずらされたのか?
言いしれぬ怒りがこみ上げてきた私は、リフトの係り員のお兄ちゃんに訴えた。
「なんかいたずらされたみたい。すぐ外れちゃうの。ほらっ。ね。入れるでしょ。ほらっ、抜ける。」
係員のお兄ちゃんは、金具を見てくれて言った。
「取りあえず今だけ外れないように締めておきましたから、力を入れずにただそのまますっと降りて行って下さい。一番下の建物のサービスステーションで調節して貰って下さい。」
で、私は、ぶんぶん怒りながらパラレルやボーゲンもすることなく、カカシのようにまっすぐに降りていった。

風を受けて私は滑る。すると不思議な事が起きた。
風を受けてスキーに付着していた雪が吹き飛ばされてチラッと青い色が見えた。
ん?私のスキーに青色はなかったはず・・・と思った瞬間!何?このストック!なんでこんなに長いの!!!気付くと私は、耳の高さまであるような長いストックを持っていたのだ。 スキーはその全貌を明らかにして益々、青い色を見せてくる。
私が他人のスキーを間違ったのだ!

それに気付いたときには、もう引き返すリフトはすでに後方にあり、私はそのまま一番下のセンターロッジに行くしかなかった。

センターロッジに着いた私は受付のお姉さんに言った。
「すみません。どうも私、スキーを間違えてしまったらしいんです。どうしたら良いでしょうか?」
事情を話すとお姉さんは、あちこち電話をして事態を把握し私にこう言った。
「山のてっぺんで俺のスキーがないと騒いでいる人がいました。今、連絡を取りましたのでリフトを使ってこっちに向かってくるようです。しばらくお待ち下さい。」
私は、2m近い巨大な青いスキーと異様に長いストックと共にそこでその持ち主が現れるまで待つ事になった。しかし。そのスキーは私のスキーとまったく似ていない。何故私は間違ったのだろう。

暇な私は受付のお姉さんの仕事ぶりを見ていた。
彼女は実にテキパキと苦情や案内をこなす。ある団体に説明しているのを見ているとその団体の後ろに物を言いたいがその団体の用事が終わるのを待っている青年がいるのに気付いた。

お姉さんを見るのに飽きた私は今度は、その青年を観察することにした。
スキーウエア良し。スキー靴良し。しかし・・・その帽子はいかん!帽子は毛皮で出来ていて後ろにアライグマの尻尾状のものがぶら下がっているよくロシア人がかぶっているようなそんな帽子だった。
私は、不躾にジロジロ見た。受付嬢が団体客をこなし、その青年が彼女に向かって話した。

「あのぅ・・・。僕が山のてっぺんでスキーがないと騒いでいた男です。」

うげ・・。

私は慌てた。怒鳴られてもしかたがないと思った。謝った。ごめんなさい。すみません。ただただ謝った。すると青年はこう言ったのだ。
「もう勘弁して下さいよ。僕は元旦からリフトで逆向きに降りるという経験をしてしまいました。」
青年の話しによると、最初は盗まれた!と思い大騒ぎし、憤慨し、次に、間違われて、今、下に行けばあると聞かされ、怒りと安堵が混じり、長いこと何度もリフトを乗り換えて到着する頃には、出てきて良かったじゃないか。という仏様に感謝の気持でいっぱいになったという気持の変遷を経験したらしい。
とにかく私は、平謝りに謝って青年にスキーを返した。

次に私がやった事・・・それは自分のスキーを山のてっぺんまで取りに行くという作業である。
山のてっぺんまではリフトで行った。スキーを履かずにリフトへ乗るというのは初めてだ。目立つ。でもそれはさっきアライグマ尻尾青年が経験した。しかも青年は逆送。
とにかく私は大勢のスキー客の中でスキーを履かずにリフトを乗り継いでいったのである。
連絡を受けていた要所要所のリフトの係り員は、にやにやしながら私を迎えてくれて送り出してくれた。
わざわざ話しかけてくる係員もいる。
「あんたが、スキーを間違えた人かい〜?」
私は曖昧な笑顔で返すしかすべがなかった。
何度もリフトを乗り継ぎ、山のてっぺんに着いた。私のスキーはそこにちゃんとあった。当たり前だ。
スキー装着。気持ちよくピタっとはまる。当たり前だ。

私は、そのまま山を気持ちよく滑り降りた。その時、なんとなく心に引っかかっていた事が沸き起こった。
そう言えば、あの2m近いスキーの金具・・・私のスキー靴に合わせていじったんだっけ。言うの忘れた。今頃困ってるかも。

私は、さっさと帰ることに決めた。






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