「おじいちゃん、早く動物園に行こう!」
ロッキングチェアで揺れながら、うたた寝していた老人は、
孫の声で目を覚ました。前から約束していた家族の行事
だったが、気が進まなかった。
「父さん。息子も楽しみにしていたんだ。さぁ、行こう。」
「お父さん、何をためらう事がありますの?きっと楽しいわよ。」
孫の父親と母親もしきりに、勧める。
「おじいちゃん、トリケラトプスもかっこいいけどね、
何と言ってもブラキオサウルスだよ。大きいんだ。すっごい
んだよ。」
「そうなんだろうね。でも、おじいちゃんは、なぁ・・・。」
「もうっ、行かないんなら、僕とお父さんとお母さんで行っちゃうよ。」
「そうだね。楽しんでおいで。やっぱりおじいちゃんは、
お留守番をしているよ。」
老人は回想する。子供の頃に見た本物の象やキリンやサイ、
カバ、ダチョウ、トラや、ライオンの事を。今となっては図鑑や
絵本でしか見る事が出来なくなってしまった動物達。
人間以外の動物は、ほとんど絶滅してしまった。
人間しかいなくなってしまって、とても寂しく感じたのか、
人々は、人工動物を造り出す技術を生み出した。
その際、人畜無害になるように改良する事を忘れなかった。
動物園という名の場所に一ヶ所に集めて見る事が出来る
ようにした施設には、熱帯や冷帯の動物が脈絡もなく展示されている。
最近では、古代の恐竜まで人工的に再現し、流行しているというのだ。
老人はまどろんだ。
そして夢を見た。子供の頃見た、本物の象やライオンの夢を。
|