火星ではときおり見かける植物で、しゃべる草というものがある。 しゃべると言っても地球のオウムのようなもので、こっちの言っている事をただマネているだけの草だ。発見された当初は、珍しがられて人々にもてはやされたが、たちまち増えるし、 そうなるとただのうるさい草で、すぐに飽きられた。 俺の仕事は、火星の人跡未踏の地へ行き、有害と思われる動植物の発見と駆除の判断をまかされている。 最初、この草を見つけたとき、一時ブームになってすぐ廃たれたしゃべる草が、ここにも生えていると思い分布図に書き込んだが色形が少し違う。確かめるために話しかけてみた。 「こんにちは」 「コンニチハ」 ふん、やっぱり変わらないな。 「さぁ、さっさと終わらせて帰るか」 「コンナ奥地マデヤッテキテ、ヤッテラレナイヨナ」 何!? この草が言ったのか? 「やってられないなんて言ってないぞ。やりがいのある仕事だ」 「地球デ不始末サエ起コサナケレバ、コンナ所ニ来ナカッタ」 「何言っている! 不始末なんて起こしてない。あれは事故だったんだ。俺のミスじゃない」 「本当ハ、みすノ可能性ガアルカラ、表沙汰ニナルノヲ恐レテココニ志願シテキタンダ」 「なぜ、それを……。こんな草を相手にしないで帰ろう。家族が待っている」 「地球ニ残シテキタ女ニ会イタイ」 「な…なんてことを……俺は今の仕事と家族が一番大切……」 「地球ニ帰リタイ、地球ガ懐カシイ…」 草は単純なオウム返しの草ではなかった。本音の草だった。俺は熟考の末、S級有害植物と判断し、見つけ次第遠距離からの駆除を要請する書類を作成した。 しかし、誰にも明かしたことのない、自分自身もあざむいてきた心の奥底の本音を聞いてしまってから、酒の量が増えたのは言うまでもない。 |