さえないマジシャンがいた。 彼の得意技は、箱の中に自分が入りノコギリで箱ごと切ったりナイフで箱の外からメッタ刺しする、しかし自分は大丈夫。 というような、子供でもネタの知れてるあれである。売れない彼に戦争の被害を受けた ある発展途上国の村へ慰問団として行かないか?という話が来た。彼は承諾した。 彼は、村では英雄だった。拍手、喝采、アンコール。本国では味わったことのない反応を、 村人は示してくれる。彼はいい気になった。刺すと引っ込むナイフ。こんな物でも人々は、大げさに 反応してくれ、彼は得意の絶頂だった。 ある夜、酔っていい気持ちで歩いていると、いきなり後ろから棒のような物で頭を殴られた。 遠くなる意識の中で男の声が聞こえた。 「なっ、すごいんだぞ。こいつは死なないんだ。今にむっくり笑って起きあがってくる。 俺ぁ、見たんだ。ノコギリで切られてもナイフで刺されても大丈夫なんだ。 うそじゃねぇ、お前らにも見せてやりたくてよ。」 |