火星の大気を濃くする作業は続いた。 数値は、まだ基準点の下だが来るべき火星大量移住時代に備えて施設の建設も進んでいた。 大気が少しずつ濃くなるにつれて特有の砂嵐が出てきた。 風。懐かしい風。あぁ、はやくマスクをとって風を頬で感じたい。 僕は、午前中の作業を終え、少し濃くなったはずの空を見た。 「あっ」 誰が飛ばしたのか、火星の薄い大気に紙飛行機が舞っていた。 太陽の光を受け、白く輝いて、上昇気流を捕らえたのか、驚くほど高くゆっくりと飛んでいった。 これからの火星の未来と、人々の希望と期待を象徴するように。 僕たち作業員は、目が痛くなるまで、点になって見えなくなるまで見送った。 |