「親方。あんな壁にへばりついていますぜ」 「また面倒な所に。どれ駆除用の煙を焚くか」 その時、壁にへばりついた生き物からなんとも不快な音が発せられた。 「むきょきょきょきょきょじゅぅぅ」 人々は火星犬と言っているが火星には哺乳動物系の生物はいないとされている。 見かけや大きさは地球の犬そっくりだが、どちらかというと昆虫の仲間だ。 これが人々にいわれのない不快感を与える。 親方と呼ばれた男は、ただひとりの従業員とコンビで火星犬駆除の仕事をしている。 今のところは、専用の煙しか効果はない。ヘタに刺激をすると嫌な匂いを発する。街中の機能が半日マヒするほどの匂いだ。 「むきょきょきょきょきょじゅぅぅ」 火星犬は再び不快な音を発した。 「うわぁ。また鳴きやがった。今のは特別に嫌な感じだ」 「おい、あの鳴き方は雲を呼ぶぞ」 「ってことは駆除用の煙が消えてしまう。あっ、雨……」 「あざ笑っていやがる。まったく嫌なヤツだ」 ふたりは憎らしげに火星犬を見上げた。 それを知ってか知らずか火星犬はさっきよりも高らかに音を発し、それは街中に響きわたり、駆除のコンビを憂鬱にさせるのであった。 |