BSEってどのような病気なのでしょう。
牛の脳に顕微鏡で見るとスポンジのような空洞ができて、運動神経が冒され、四肢の自由がきかなくなり、死に至る病気です。これは凝集した「プリオンタンパク」が変化して引き起こされると考えられます。
正常なプリオンタンパクは、すべての動物が持ち、特に中枢神経の脳にたくさんあり、生体維持機構に役立 っています。しかし、プリオンが体内に入ると、それを鋳型にして正常プリオンタンパクが次々に異常化してプ リオンとなり、それらが脳神経に蓄積してプリオン病が発生するのです。
プリオンタンパクはもともと異物ではなく身内なので、防御反応が起きないため、炎症はありません。それで 脳炎ではなく、「脳症」と呼んでいます。
BSEにかかった牛はどんな症状を示すのでしょう。
マスコミでは「狂牛病」という言葉が使われているため、狂った牛というイメージを抱きやすいのですが、実 際にはそんな症状はありません。また、よくテレビに転び続ける牛の映像が出てきますが、症状が進むと起 立不能になるとはいえ、あんなに転ぶものでもないのです。初期症状としては、気性が変化したり、不安そう な動作をしたり、音や接触に対して過敏になります。経過が進むにつれて、鼻をなめ続けたり、地面をけった り、足を高く上げて歩いたりという異常行動が見られ、やがて転倒したり、起立不能になるなどの神経症状を 示します。BSEの潜伏期間は牛の場合は2年から8年で、5歳プラスマイナス1.5歳の間の発症が多く、発症 すると2週間から半年で必ず死に至ります。今のところ、有効な治療法はありません。
BSEはどのようにして感染するのでしょう。
BSEの起源がどこにあるのかは、まだはっきりはしていません。やはりプリオンタンパクの異常で起こる羊 のスクレイピーという病気に由来すると言う説と、1頭の牛のプリオン遺伝子に突然変異が起きて、プリオン が生まれたという説があります。
BSEは人にも感染するのでしょうか。
人のプリオン病には、従来からクロイツフエルト・ヤコブ病という難病が世界的にあります。しかし1996年に、これとは明らかに違う変異型クロイツフェルト・ヤコブ病がイギリスで発見されました。イギリス政府がこれを 「BSE感染による可能性が否定できない」と発表したことで、大騒ぎになりました。BSEにかかった牛の危 険部位が食品に混入したことが、原因と考えられたのです。イギリスでは確認されただけで18万頭の牛がB SEにかかり、すでに111人がBSE由来のヤコブ病に感染しています。しかし、牛同士での感染と、牛と人の 間での感染では、人の感受性が低いと推定されるため、人の感染率は高くないと考えられます。しかも、プリ オンの蓄積しやすい場所は、牛の場合、脳、目、脊髄、回腸に限られます。この特定危険部位を食べなけれ ば、人がBSEに感染する危険性は限りなく低くなのです。これを考えると、パニックになる必要はありません
検査で確実に感染牛を見つけることはできるのでしょうか。
BSEの標準的な診断法には、「エライザ法」と「ウエスタン・ブロット法」および「免疫組織化学法」があります。1次検査は家畜保健衛生所や食肉衛生検査所がエライザ法を使って、延髄のプリオンを調べ、感染の疑いのある牛をふるいわけます。そして、ここで陽性となったものは、2次検査に送られ、ウエスタンブロット法および免疫組織化学法で検査します。ここで陽性となったものについて、厚生労働省の専門家会議が最終的な確定診断を行い、BSEであることを決定するわけです。日本では、10月18日から、食肉処理される年間130万頭のすべてを対象に、BSEの検査が行われることになりました。これだけ、厳密な検査を積み重ねるのですから、市場に出回る食肉については、安全といえます。
ほくれん酪農畜産情報紙「つながり」19号 特集 BSEの正しい知識 品川森一教授(帯広畜産大学獣医学科)に聞くより
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